戦場鍼(BFA)は、疼痛管理を主な目的とした耳介療法(オリキュロセラピー)の一つです
戦場鍼 Battlefield Acupunctureは、Richard C. Niemtzow医師が米空軍在職中の2001年に開発した、疼痛管理を主な目的とする耳介鍼の特定プロトコルです。耳介鍼全体の総称ではなく、使用するポイントと施術手順が定められた方法を指します。[1][2]
BFAは、耳の5点へ一度にすべての鍼を刺す施術ではありません。米空軍の公式ハンドブックでは、定められた順序で左右交互に刺入し、その都度、歩行や動作、痛み、副反応を確認して、必要な時点で終了する一連の手順として示されています。[1]
名称には強い印象がありますが、戦争や戦傷を治療する施術ではありません。
いいえ。米国では軍医療や退役軍人医療を含む臨床で、急性痛または慢性痛の疼痛管理を補助する選択肢として扱われています。「戦場」という名称が、戦傷やPTSDなどを治療対象として指定しているわけではありません。[1][4][11]
いいえ。BFAは疼痛管理を補助する選択肢の一つです。新たに生じた痛みや、これまでと大きく異なる痛みでは原因の確認を優先し、処方薬を自己判断で中止しません。[15]
公式ハンドブックには、痛みに加えて睡眠、活力、活動、心身の調子などを記録する項目があります。これは施術後の経過を幅広く確認するための項目であり、それぞれに対する有効性が確立していることを意味しません。[1]
写真で使用している器具はASP Titaniumです。ASPは耳介への留置を目的とした半永久鍼の製品群で、製造元であるフランスのSedatelec社は、耳介療法を体系化したPaul Nogier医師との協働による開発経緯を示しています。
2021年版の米空軍ハンドブックではGold ASPを用いる手順が記載されていますが、ASP OriginalにはClassic、Gold、Titaniumなど材質の異なる製品があります。写真で使用している器具と施術プロトコルは区別してご覧ください。
ASP TitaniumをはじめとするSedatelec社製品については、Sedatelec日本正規代理店 株式会社Transparenceまでお問い合わせください。
米空軍の公開ハンドブックと公式実技手順を「BFAの公式手順」としてまとめ、臨床研究とは分けて記載しています。掲載写真の器具については、写真直下の注記をご確認ください。
BFAと、BFA以外のASP耳鍼療法は区別が必要です
ASPニードルは器具の名称です。ASPを使用する耳鍼のすべてがBFAになるわけではなく、BFAは公式文書に手順が示された特定のプロトコルです。[1][8]
| 比較項目 | 戦場鍼 BFA | BFA以外のASP耳鍼 |
|---|---|---|
| 位置づけ | 標準化された疼痛管理プロトコル | ASPニードルを用いる耳鍼のうち、BFA以外の方法 |
| 使用ポイント | 定められた5つのポイント | 採用する方法や目的によって異なる |
| 刺入順序 | 決められた順序で左右交互に進める | 採用するプロトコルによって異なる |
| 評価 | 刺入ごとに動作と痛みを再評価する | 採用するプロトコルによって異なる |
| 主な目的 | 急性痛・慢性痛の疼痛管理 | 採用する方法や対象によって異なる |
米空軍ハンドブックは5点の位置だけでなく、刺入順序、歩行、痛みと副反応の再評価、終了条件を一連の手順として示しています。[1] BFA JAPANでは、公開ハンドブックと公式実技手順を踏まえ、国内法令に沿った安全管理とともに指導しています。
BFAはどのように進めるのか
BFAは一度に10本を刺す施術ではありません。1本ずつ反応と副反応を確認し、終了条件に達した時点で止める逐次評価型の手順です。[1]
痛みの原因、医療機関の受診状況、適応除外、服薬、耳の状態を確認し、DVPRSなどで施術前の痛みを評価します。[1]
帯状回、視床、オメガ2、ポイントゼロ、神門の順に、左右の耳へ交互に進めます。[1]
米空軍ハンドブックでは、刺入ごとに短い歩行を行い、痛みと副反応を再評価します。[1] 米国BFAセミナーでは、歩行または対象動作を原則30秒行う手順が教えられています。30秒の歩行評価は米軍関連の臨床試験でも用いられています。[6]
鍼を追加する前に痛みの変化を再確認します。反応がない場合でも、手順を飛ばしたり自己流で本数を増やしたりしません。
米空軍ハンドブックでは、Pain Scoreが0〜1、重大な副反応、本人の中止希望などを終了条件として示しています。[1] 公式実技手順では、Pain Scoreが3未満となった場合も終了判断とされます。
刺入ごとに30秒を目安とする歩行または対象動作の評価を行い、Pain Scoreが3未満となった場合は、原則として追加刺入を行わず終了します。これはBFA JAPAN独自の国内基準ではなく、公式実技手順として米国のBFAセミナーでも教えられています。
研究から分かっていることと、まだ分かっていないこと
BFAを正しく伝えるためには、良い結果だけでなく研究上の限界も同時に示す必要があります。
対照群への明確な優越性は未確認
9件のランダム化比較試験を検討し、うち5件・344人を量的統合したレビューでは、対照群と比べた統計学的に有意な改善は確認されませんでした。研究の方法論的質は低いと評価されています。[3]
肯定的結果はあるが、確信度は限定的
7件・758人のランダム化比較試験のうち71%が肯定的結果を報告しましたが、研究間の不均一性が大きく、多くはバイアスリスクが高く、全体の方法論的質は低いと評価されました。重篤な有害事象の報告はありませんでした。[7]
11,406人のVA診療記録
4分の3を超える人で施術直後の痛みスコア低下が記録され、初回の平均変化は10段階評価で2.5ポイント、約60%が臨床的に意味のある変化に達しました。ただし、対照群のない診療記録研究であり、因果関係や持続効果は判断できません。[4]
BFAは施術直後に痛みの変化を示す人がいる一方、比較試験とレビューの結果は一様ではなく、疾患や場面を越えた有効性は確立していません。現段階では、通常医療に置き換える方法ではなく、適応を選んで併用を検討する疼痛管理の補助的選択肢と位置づけるのが妥当です。[3][5][7]
レビューと比較試験の内容を詳しく見る
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2021年 システマティックレビュー・メタ解析
9件のランダム化比較試験が検討され、対照群に対する統計学的に有意な優越性は確認されませんでした。研究の質が低く、より厳密な試験が必要とされています。[3]
PubMedで確認する -
2025年 システマティック文献レビュー
11件、合計1,232人のランダム化比較試験が検討されました。4件ではBFA群の痛みが低く、4件では差がありませんでした。急性の軽度から中等度の痛みに対する可能性が示された一方、小規模研究、盲検化、プロトコルの不統一などが課題とされています。[5]
論文を確認する -
2025年 肩関節安定化手術後のランダム化比較試験
95人が登録され88人を解析した試験では、標準理学療法へBFAを追加しても、痛み、気分、自己評価による改善、薬の使用量に追加効果は確認されませんでした。特定の術後疼痛に関する結果であり、他の病態へ直接一般化はできません。[6]
PubMedで確認する -
2026年 救急部門のシステマティックレビュー
7件、合計758人のランダム化比較試験を検討し、肯定的結果を報告した研究は71%でした。一方で、多くの研究はバイアスリスクが高く、介入法、観察時点、アウトカムが不均一なため量的統合は行われていません。著者らは、補助療法としての可能性はあるものの、現時点の根拠への確信は限定的と結論づけています。[7]
PubMedで確認する
よく紹介される「75%」という数字について
2009年の紹介記事では「多くの患者で痛みが最大75%低下した」「反応した人の痛みの低下が平均約75%だった」など、異なる意味の数字が紹介されています。「75%の人に必ず効く」という意味ではありません。また、リンク先は査読付き有効性研究ではなく、歴史的な紹介記事です。効果判定の根拠には用いず、BFA JAPANでは施術前後の評価と個人差を重視します。[14]
安全に受けるために知っていただきたいこと
BFAは皮膚へ鍼を刺入する施術です。低侵襲ではありますが、無侵襲でも副反応が全くない施術でもありません。公式ハンドブックは適応除外と刺入ごとの副反応確認を定めています。[1]
安全確認施術を見合わせる、または慎重に判断する場合
- 妊娠中または妊娠の可能性がある
- 強い針恐怖がある、または針で失神したことがある
- 施術する耳に感染、強い炎症、傷がある
- 出血性疾患がある、または抗凝固薬などを使用している
- 耳にケロイドができたことがある
- これまでにない痛み、急に変化した痛み、原因未確認の強い痛みがある
副反応起こる可能性のある反応
- 刺入時または留置中の痛みや違和感
- 少量の出血、内出血、圧痛
- めまい、ふらつき、眠気、血管迷走神経反射
- 刺入部の赤み、腫れ、熱感、炎症
- まれに感染や痛みの一時的な増悪
- 留置した鍼の脱落
処方薬を自己判断で中止しないでください。
留置期間と取り外し方は使用する器具や身体の状態によって異なります。施術者の指示に従い、赤み、腫れ、熱感、痛みの増加がある場合は速やかに取り外して施術者または医療機関へ相談してください。MRIなどの画像検査を受ける際は、留置中であることと器具の材質を検査施設へ必ず伝え、施設および器具の指示に従ってください。ASP Titaniumは製造元が非磁性と案内していますが、検査可否を自己判断しないでください。[9]
正しいBFAを、安全に提供するために
BFA JAPANでは、単に5点を覚えるのではなく、適応判断、評価、終了基準、アフターフォローまで含めた実践教育を行っています。
日本国内で報告されたBFAの症例
国内でもBFAに関する症例報告が行われています。症例報告は臨床上の示唆を与える資料ですが、一般的な有効性を証明するものではありません。
毫鍼を用いた戦場鍼治療による肩関節痛の1症例[12]
ASPニードルではなく毫鍼を用いてBFAポイントへ介入した国内症例です。
J-GLOBALで確認するASPニードルによる戦場鍼が著効した難治性腰痛の一症例[13]
松浦哲也らが、ASPニードルを用いたBFAと動作評価を行い、全日本鍼灸学会学術大会で報告した一症例です。
学会抄録集で確認する個別の症例で得られた結果を、他の患者さんへそのまま当てはめることはできません。施術の適否と結果には個人差があります。
実際の施術と身体の変化
BFAでは、施術中に歩行や対象動作を繰り返し、変化をその場で確認します。動画は個別の施術例であり、同じ結果を保証するものではありません。
米軍・VAによるBFA公式動画を見る
戦場鍼 BFAについてよくある質問
なぜ「戦場鍼」という名前なのですか
軍事環境など設備や時間が限られる場面でも実施しやすい疼痛管理法として開発されたことに由来します。戦争による傷を耳鍼だけで治療するという意味ではありません。
ASPニードルを使えばBFAになりますか
いいえ。ASPニードルは耳鍼に使用する道具です。BFAは5つのポイント、刺入順序、左右交互の刺激、動作確認、痛みの再評価、終了判断を含む標準プロトコルです。
必ず10本の鍼を使うのですか
いいえ。1本ずつ反応を確認し、必要な変化が得られた時点で終了します。最大で左右5本ずつの合計10本ですが、毎回10本を使用するものではありません。
一度で必ず痛みが軽くなりますか
必ず変化するわけではありません。施術直後に痛みの低下を報告する方がいる一方、変化がない方や一時的に痛みが増す方もいます。効果の程度や持続期間には個人差があります。
薬や病院での治療をやめてもよいですか
いいえ。BFAを受けることを理由に、処方薬や医療機関での治療を自己判断で中止しないでください。変更を希望する場合は、必ず処方した医師へ相談してください。
誰でもBFAを施術できますか
鍼を使用するBFAは、国内の関係法令と各資格の業務範囲に基づき、鍼施術を行える有資格者が実施する必要があります。また、安全な提供にはBFA固有の実技トレーニングが必要です。一般の方による自己施術は行わないでください。
どこでBFAを受けられますか
BFA®標準治療推進ネットワークの名簿から、標準プロトコルによるBFAを提供する施設を確認できます。料金、予約方法、使用するASPニードルなどは各施設へ直接ご確認ください。
引用文献と資料区分
本文中の番号から各資料へ移動できます。公式手順、臨床研究、製造元資料、国内資料を区分して掲載しています。
- U.S. Air Force Acupuncture and Integrative Medicine Center. Battlefield Acupuncture Handbook. 2021.公式手順
- Niemtzow RC. Battlefield Acupuncture. Medical Acupuncture. 2007;19(4):225–228. doi 10.1089/acu.2007.0603.原著・手技報告
- Yang J, Ganesh R, Wu Q, et al. Battlefield Acupuncture for Adult Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. American Journal of Chinese Medicine. 2021;49(1):25–40. doi 10.1142/S0192415X21500026.システマティックレビュー・メタ解析
- Zeliadt SB, Thomas ER, Olson J, et al. Patient Feedback on the Effectiveness of Auricular Acupuncture on Pain in Routine Clinical Care: The Experience of 11,406 Veterans. Medical Care. 2020;58 Suppl 2 9S:S101–S107. doi 10.1097/MLR.0000000000001368.観察研究
- Dai N, Liu X, Wan H. Practical Applications and Safety of Battlefield Acupuncture for Pain Management: A Systematic Literature Review. Journal of Multidisciplinary Healthcare. 2025;18:2749–2769. doi 10.2147/JMDH.S517946.システマティックレビュー
- Crowell MS, Florkiewicz EM, Morris JB, et al. Battlefield Acupuncture Does Not Provide Additional Improvement in Pain When Combined With Standard Physical Therapy After Shoulder Surgery: A Randomized Clinical Trial. Military Medicine. 2025;190(7–8):e1509–e1517. doi 10.1093/milmed/usae577.ランダム化比較試験
- Yang J, Zhou X, Lim KH, et al. The Role of Battlefield Acupuncture in Emergency Department Settings: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. Journal of Integrative and Complementary Medicine. 2026;32(9):718–726. doi 10.1177/27683605261435756.システマティックレビュー
- SEDATELEC. ASP Semi-Permanent Needle. ASP Originalの開発経緯およびClassic、Gold、Titaniumの製品情報。製造元資料
- SEDATELEC. ASP Titanium. 医療用チタンおよび非磁性に関する製品情報。使用時は添付文書と検査施設の指示を優先。製造元資料
- 厚生労働省. あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師について.行政資料
- U.S. Department of Veterans Affairs. Whole Health Library Research Articles: Battlefield Acupuncture.行政・臨床資料
- 毫鍼を用いた戦場鍼治療による肩関節痛の1症例. J-GLOBAL収録情報. 2022.国内症例報告
- ASPニードルによる戦場鍼が著効した難治性腰痛の一症例. 全日本鍼灸学会学術大会抄録集. 2025.国内学会抄録
- Battlefield Acupuncture. Acupuncture Today. 2009. 本文中の「75%」表現の由来を確認するために掲載しており、有効性判定の根拠には採用していません。歴史的紹介記事
- U.S. Department of Veterans Affairs. Veterans Health Library: Battlefield Acupuncture (BFA). 2024.行政・患者向け資料
文献確認日 2026年9月2日 研究結果は研究デザイン、対象、比較条件、評価時点によって解釈が異なります。本ページは個別の診断や治療推奨を行うものではありません。
BFAを受けたい方も、正しく学びたい方も
BFA JAPANが目指しているのは、BFAという技術をただ広めることではありません。学ぶ側には正しい知識と実技を、受ける側には安全と信頼を届けられるよう、標準プロトコルを次の担い手へつなぎ、全国で安心してBFAを選べる環境づくりを進めています。
TRADEMARK NOTICE
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